鍼灸院開業を考えている方へ
「鍼灸院を開業したいけれど、食べていけるのか不安」
「開業資金はいくら必要なのか」
「技術と集客のどちらを優先すればよいのか」
このように悩んでいる鍼灸師も多いと思います。
私は鍼灸師の資格を取得して1年後の2008年に、広島県安芸郡海田町で鍼灸院を開業しました。
勤務経験も実績もほとんどない状態からの出発です。開業初月の売上は約7万円。1年目の所得は、経費を差し引くとマイナスでした。
それでも鍼灸専門院として営業を続け、現在まで鍼とお灸を中心に施術を行っています。
このページでは、私自身の失敗をもとに、鍼灸院を開業する前に知っておきたい現実、運転資金、技術、集客についてお伝えします。
※ここで紹介する内容は、私自身の開業経験に基づくものです。必要な資金や経営状況は、地域・家賃・生活費・家族構成などによって異なります。
私が鍼灸師に開業を勧める理由
鍼灸師が働ける場所は、整形外科、鍼灸接骨院、介護施設などに限られる場合があります。
勤務先によっては、施術時間や使用できる鍼の本数、担当できる症状などが決められていることもあるでしょう。
自分で開業すれば、施術方針、営業時間、料金、使用する鍼などを自分で決められます。患者さんの状態を自分で確認し、施術後の経過まで責任を持って追えることも大きな特徴です。
もちろん、誰もがすぐに開業すれば成功するわけではありません。技術だけでなく、資金管理、集客、接客、経理なども自分で行う必要があります。
それでも、自分の考える鍼灸を形にしたい方には、独立開業という選択肢を真剣に検討してほしいと思っています。
開業当初はほとんど患者さんが来なかった
私の開業後の数字は、次のようなものでした。
開業初月の売上:約7万円
初月の来院数:21人
2か月目の来院数:19人
3か月目の来院数:約30人
1年目の所得:マイナス約50万円
2年目の所得:約50万円
3年目の所得:約150万円
4年目以降:徐々に上向く
予約の電話があまりにも鳴らないため、自分の携帯電話から院へ電話をかけ、きちんとつながるか確認したこともあります。
1年間働いても所得がマイナスだと知った時は、さすがに衝撃を受けました。
それでも、少ないながらも来院してくださる方がいました。空いている時間を使って勉強し、施術を見直し、ホームページを更新しながら営業を続けました。
開業したらすぐに患者さんが集まるとは考えない方がよいでしょう。最初の数年間をどう乗り切るかまで考えておく必要があります。
開業前に運転資金を確保する
鍼灸院の開業では、内装や設備よりも、開業後の運転資金が重要です。
毎月必要になる費用には、次のようなものがあります。
テナントや部屋の家賃
水道光熱費
通信費
広告費
鍼・消毒用品などの材料費
保険料や税金
自分と家族の生活費
開業時に立派な内装や高額な機器へお金を使いすぎると、売上が安定する前に資金が尽きる可能性があります。
開業する場所や業態によって必要額は異なりますが、少なくとも1年間は売上が少なくても生活と営業を続けられる資金計画を立ててください。
資金が十分でなければ、開業日数を絞り、残りの日にアルバイトをする方法もあります。患者さんが少ない時期に毎日院内で待つより、収入源を確保した方が精神的にも安定します。
小さく始めて固定費を抑える
鍼灸院は、大きな店舗や多数の機器がなければ始められない仕事ではありません。
私は次のような形で十分だと考えています。
必要以上に広い物件を借りない
最初からベッドを何台も置かない
高額な電気治療器を購入しない
内装や看板へお金をかけすぎない
毎月の固定費をできるだけ抑える
大切なのは、豪華な院を作ることではなく、患者さんの状態を確認して施術できる環境を整えることです。
売上が安定してから必要なものを追加しても遅くありません。
患者さんが来ない時に手技を増やさない
開業後に患者さんが来ないと、
整体を習った方がよいのか
美容メニューを始めるべきか
酸素カプセルを導入するべきか
新しい機器を購入するべきか
と迷うことがあります。私自身も同じように悩みました。
しかし、患者さんが来ない理由は、鍼灸に魅力がないからとは限りません。院の存在を知られていない、得意分野が伝わっていない、施術技術や説明が十分でないなど、別の問題も考えられます。
新しい手技や設備を増やす前に、まずは鍼灸の技術、問診、説明、情報発信を見直すべきです。
開業初期の空き時間をどう使うか
開業1年目や2年目は、予約の入らない時間が多くあります。
この時間をどのように使うかで、その後が変わります。
私は図書館へ通い、鍼灸、解剖学、運動学、栄養学などの本を年間約300冊読みました。患者さんから質問された時に、自分の言葉で説明できるようにするためです。
空き時間には、次のようなことができます。
鍼灸や身体について勉強する
施術内容を振り返る
症例を整理する
ホームページの記事を書く
院内の仕組みを改善する
必要であればアルバイトをする
予約が入らないからといって、院内で待っているだけでは状況は変わりません。勉強と情報発信を地道に積み重ねることが必要です。
鍼灸院の集客は一つに頼らない
鍼灸院経営では口コミが大きな力になります。しかし、開業直後は紹介してくれる患者さん自体が少ないため、口コミだけを待っていても集客は進みません。
ホームページ、Googleビジネスプロフィール、SNS、紹介など、自分に合った方法を組み合わせる必要があります。
当院では早い時期からホームページに力を入れてきました。派手な写真や動画を作ることは得意ではありませんが、対応している症状や施術方針を文章で伝える方法は自分に合っていました。
大切なのは、流行している集客方法をすべて行うことではありません。継続できる方法を選び、結果を確認しながら改善することです。
得意分野を患者さんに伝える
「肩こりも腰痛もスポーツ障害も何でも対応できます」と書くだけでは、ほかの鍼灸院との違いが伝わりにくくなります。
まずは、自分が経験を積みたい症状や、地域で需要のある分野を絞って発信することが大切です。
例えば、
女性特有の身体の不調
妊活
スポーツ障害
坐骨神経痛
頚椎症による腕のしびれ
ランナーの膝や足の痛み
など、具体的な症状や対象者を示すと、患者さんも自分に合う院か判断しやすくなります。
得意分野を決めることは、ほかの症状を断ることではありません。まず何の鍼灸院として覚えてもらうかを明確にするということです。
鍼灸院開業で失敗しやすい人の特徴
私の経験から、開業後に苦しくなりやすいのは次のようなケースです。
開業時にお金を使いすぎる
運転資金を十分に用意していない
開業すれば自然に患者さんが来ると思っている
空き時間に勉強や発信をしない
結果が出ないたびに新しい手技へ手を出す
固定費や毎月の数字を確認していない
自分の得意分野や特徴を説明できない
短期間で結果が出ないと諦める
技術だけでも、集客だけでも経営は安定しません。
施術技術を磨き、院の存在を知ってもらい、固定費を管理する。この3つを同時に続ける必要があります。
開業する前に決めておきたいこと
開業前には、少なくとも次の項目を具体的にしておきましょう。
誰に来てほしいのか
どの症状を得意分野として発信するか
家賃などの固定費はいくらか
売上が少ない期間を何か月耐えられるか
月に何人来院すれば生活できるか
集客に何を使うか
空き時間に何をするか
売上が伸びない場合にどう収入を確保するか
「技術が上達してから」「自信がついてから」と考えていると、いつまでも開業できないことがあります。
一方で、資金計画や集客方法を考えず、勢いだけで始めるのも危険です。
準備すべきことを整理したうえで、一歩を踏み出してください。
鍼灸師として開業を目指す方へ
鍼灸院開業は簡単ではありません。
私自身、1年目は所得がマイナスで、3年目でも十分な収入とはいえませんでした。それでも、固定費を抑え、勉強と施術、情報発信を続けたことで営業を継続できました。
開業を考えている方に伝えたいことは、次の4つです。
最初から患者さんが来るとは考えない
開業費より運転資金を重視する
空き時間を勉強と発信に使う
鍼灸師としての得意分野を育てる
開業すれば必ず成功するとはいえません。しかし、十分な準備をして小さく始め、改善を続ければ、生き残る可能性は高められます。
自分の考える鍼灸を実践したい方には、独立開業という道へ挑戦してほしいと思います。





